「だれのものでもないチェレ」を観る

 これはハンガリーの1976年の映画で、78年に岩波ホールで上映されているから、その時の新聞評や広告で題名が記憶に残っていたか、「キネマ旬報」では79年に18位になっている。

 いきなり、東欧の農村に全裸の6歳くらいの女児が牛を追っている場面から始まる。この女児が主人公のチェレで、映画の真ん中あたりまでずっと全裸で生活していて度肝を抜かれる。

 あとでわかるが舞台は1930年の独裁政権下のハンガリーで、チェレは孤児院からジャバマーリという女にもらわれてきた子供で、ジャバマーリは悪い女で、支給金目当てにチェレを引き取っただけで、衣服すら与えず、虐待の限りを尽くす。その上住んでいる家はもと住んでいたヤーノシュという老人を追いだして不正に取得したものらしく、ヤーノシュ老人は納屋に住んでいて、この人だけがチェレに優しくしてくれるが、チェレと老人が二人の憲兵と話しているのを見たジャバマーリは、密告されるのを恐れて、毒入りのミルクを老人に飲ませて殺害し、さらにチェレにも毒入りミルクを飲ませようとするが、チェレは寝ている赤ん坊にそれを与えようとする。するとジャバマーリが発見して「人殺し! 毒入りミルクを赤ちゃんに飲ませようとしたのよ!」と叫ぶ。ジャバマーリには夫もいてこの時止めるのだが、別に妻の悪事を何とも思っていないらしいのが不気味である。

 最後にチェレには救いが訪れるわけではなく、悲惨な結末を迎えるので、うつ状態の人は観ないほうがいいだろう。