松本健一「蓮田善明 日本伝説」の感想

私は日本の敗戦とともに連隊長を殺して自分も自殺した、三島由紀夫の師として知られる蓮田善明というのがあまりに嫌いで、これまで蓮田を論じた本すら敬遠してきたのだが、松本健一は右翼なのか左翼なのかという疑問がわいたのと、すでに故人であり、読んで憤激してその著者(たとえば井口時男)に手紙を送りつけたりする心配がないので読むことにした。

 小高根二郎が書いた蓮田伝にある、殺された連隊長が対馬の出身だが、元の姓を金という朝鮮人が中条家へ養子に来たとあるのは、大分県の陳という日本人の家から養子に来たのであるということを明らかにしたのが前半の、ないし本書の特質である(1990年に『文藝』に一挙掲載)

 しかしその後は、万葉集志貴皇子の和歌を論じて蓮田が、若い者にとって死こそが文化だと右翼的ファナティックを述べていたことをめぐって、松本がずるずるとそちらへ引き寄せられていくだけで、やっぱり右翼は嫌だなあ、と思ったばかりであった。