「黄禍論」の流行

先ごろ死去したドウス昌代のノンフィクション「日本の陰謀 : ハワイ・オアフ島ストライキの光と影」(文藝春秋、1991)は、のち文庫になっているが、アマゾンを見ると中身のあるレビューが一つもなかった。

 これは大宅壮一ノンフィクション賞と新潮学芸賞を受賞した作品だから、不思議だなと思ったが、中身は、第一次大戦末期のハワイでの、きび畑労働者たる日本人移民のストライキと、反ストライキの坂巻銃三郎宅が爆破された事件の精密な調査記録で、あとがきを見ると著者が五年ほどかけて調べ、奇跡的に公判記録を見つけた話なども書かれていた。のちに『イサム・ノグチ』を書く著者であり、こちらは講談社ノンフィクション賞を受賞している。受賞は妥当だが、一般読者には地味すぎたのかもしれない。

 ドウスは米国人と結婚した日本人で、このあと決められた排日移民法が日米の対立をあおり、日米戦争に至ったとしている。ところで1991年という刊行年は真珠湾攻撃50周年で、その年12月8日に私はヴァンクーヴァーの大学の寮にいて、共同室へ行ったら真珠湾攻撃のドラマをやっていてちょっと変な目に遭った。それで日本側としては、黄禍論がいけないんだとか、ルーズヴェルトの陰謀だとか言っていたので、平川祐弘なんかは黄禍論のほうの旗振りをやっていた記憶がある。まあドウスとしてはそういう愛国主義者に加担する気はなかっただろうが。