木原善彦「アイロニーはなぜ伝わるのか?」アマゾンレビュー

2020年7月19日に日本でレビュー済み

 
ですます体で書かれているので、知らずに読み始めると平和な言語学者が書いた本かと思うが、「ハックルベリー・フィンの冒険」を「冒けん」などと表記しているので、ああ柴田元幸に媚びる必要があるアメリカ文学者だな、と分かる。前半はだいたい穏当な内容だが、「脱構築」をアイロニーとしている。例として大橋洋一の著書から、大学教授が「〇×式教育はよくない」と発言したのに対して、その発言自体が〇×式だ、という反論が紹介されている。だが、すべての脱構築は、ソクラテスでもやるような平常の反論であって、そこにアイロニーはなく、脱構築とわざわざ名付ける必然性もない。そのあとの民主主義国家で独裁者が選ばれることが多くなったというあたりは事実かどうか疑わしく、著者は親中派っぽいと分かる。なおソーカル事件について、「査読」を通ったと書いているが、「ソーシャル・テクスト」は当時は査読制ではなかった。ロマンティック・アイロニーに触れられていないのは新書だからだろう。