ヘレン・ケラーを描いた「奇跡の人」の題名はサリヴァン先生のことなのだが、あの戯曲はヘレン・ケラーについての誤解を広めている。その最たるものが、サリヴァン先生から手にざぶざぶ水をかけられて、初めてものに名前があることを知って「ウォーウォー」と発音したという話で、だいたい聞こえないヘレンがいくらサリヴァン先生が「ウォーター」(アメリカではワーラー)と言っていたって聞こえるはずはないし、自分が発音したのだって聞こえないのである。自伝を読んだらちゃんと、失明失聴する前に「ウォーウォー」=水だけは知っていて、それを思い出したのだと書いてある。
 サリヴァン先生が来た時には、ただ暴れ回るだけの子供だったというのも嘘で、ヘレンはものすごく頭のいい子であったから、そんなことはなかったのである。
 そういう歪曲は映画になり、『ガラスの仮面』で広まりしている。『ガラかめ』といえば、「狼に育てられた少女」ってのも結局は嘘だったわけで、漫画のほうも断り書きをつけたほうがいいんじゃないか。