『文學界』の伊藤比呂美の連載「切腹考」で、伊藤と渡辺京二の対談が引用されている。伊藤は、海外では人なつこいと言い、渡辺は昔は日本もそうだったと言っている。伊藤は、そうかなあと言っている。
昔の日本、というのは戦前までだが、人は身なりで階級が分かった。だから、見知らぬ人でも階級を認識して話しかけられたのである。だが戦後の日本では身なりで階級が分からなくなり、見知らぬ人に話しかけられなくなった。だから渡辺が正しいのだが、階級の存在に気づこうとしないところが渡辺のダメなところである。
(小谷野敦)