一きれのパン

 私が中学生の時、国語教科書に、ルーマニアのフランチスク・ムンティアヌの「一きれのパン」が載っていた。第二次大戦中、語り手のルーマニア人が、ルーマニアソ連に寝返ったというのでナチス・ドイツに拘束されて牢へ入れられ、そこから脱出する。ユダヤ人のラビンという男が、一きれのパンを渡してくれて、逃げる間ずっと持っていろ、食べちゃいけないと言う。ついに逃げおおせて、家族のところへたどりつく。で、ラスト。「ありがとう、ラビン」
(後記)上記につき、「ラビン」ではなく「ラビ」のはずだという指摘をもらった。私が見たのは、『一きれのパン 中学生』(成城国文学会編、ポプラ社、1969)に入っていた直野敦の訳だが、より新しい『光村ライブラリー 中学一年国語』で見ると確かにラビという普通名詞になっていて、これも直野訳だ。つまり誤訳していたので直したということか。
(後記、2月4日)光村図書に問い合わせたところ、この作品は筑摩書房の『世界文学大系94 現代小説集』(1965)に依拠しているとのこと。で確認すると、ここでは「ラビン」であった。