実は私は川端康成の書簡を一通持っている。古書店で売っていたのを通販で18万くらいで買ったのだが、三浦君子という人宛てだったからである。1947年3月10日づけだが、届いて中身を見てがっかりした。当時川端は白木屋にあった鎌倉文庫に勤めていたが、三浦という人が訪ねてきて、ちょうど入社試験の最中で川端が忙しかったので帰ってしまい、「用事はすみましたか」という手紙を出しただけだったからである。宛先住所は下北沢辺だったから、行ってみたが、三浦という家はなかった。
川端は筆まめで、どうでもいいことでも手紙を書く人だから、これもその一つだろう。ところが今ヤフオクで、その三浦君子に与えたらしい川端の名刺が出ている。住所の二階堂を長谷と直し、右肩に「白木屋四階、日産庶務」、左肩に「三浦様」と書いている。もともと白木屋の日産の事務所を借りていたのである。
三浦君子は、この名刺を貰ったから、白木屋へ訪ねてきたのだろうから、果たしてどこで渡したのか。