二人の人間が会話をしていて、ふと沈黙がおち、同時ないしほぼ同時に言葉を発してしまうことがある。映画やドラマでは、恋愛関係に入る寸前の男女は、こういう時に、二人とも、「あの…」と言って、また黙って下を向いてしまう。現実においては、へだてのある間柄なら、「あ、お先に」「いえそちらから」と譲り合ったりする。
だが現実には、片方が、たいていは少し遅れて発話したほうだが、委細構わず話し続けるということがある。しかし、映画やドラマでそういう場面が再現されることはめったにない。もしあったら、観客は、何かの伏線かと思ってしまうだろう。
そしてこの場合、「とられた」側は、しばしばうろたえて、「えっ」などと言ってごまかすものである。