ミラ・ジョヴォヴィッチが主演している「フェイシズ」という映画を観て、アマゾンレビューを書こうと思ったのだが、考えてみると私がこの映画のレビューを書くのは不適切である、と気づいた。
これは、殺人現場を目撃してしまった女が、暴行されて命は助かるのだが脳に障害を受けて相貌失認になり、人の顔を覚えられなくなるというサスペンス映画である。
しかるに私は、西洋の映画を観ていると、知っている俳優ないしはよほど特徴のある顔の俳優でないと見分けがつかない、先天的対西洋人相貌失認なのである。最近では日本でも、若くて知らない俳優が増えてきて、だんだんそうなりつつある。
したがって、この映画では、観客はそれが誰だか知っているがヒロインは分からずにいる、という構造を持つのだが、私はヒロインと同じ立場に立ってしまうのである。それで、「ああ、これ、父親だったのか」とか、果ては真犯人が現れても、これは、誰だっけ、となってしまうのである。いや実際、真犯人は、既に登場している人物だったのだが、分からなかった。この映画ほど、私に向いていないのもあるまいと思った。
しかしどうやらレビューを見ると、ほかの人もこの映画は男たちの見分けがつきづらいらしい。
(小谷野敦)
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