金子武雄という人

 数日前から、金子武雄という国文学者の随筆集を読んでいる。『葦笛』と『人生有情』と二冊ある。金子は1906−83、東大教養学部教授、駒澤大学教授、昭和女子大学教授を務めた人で著作も多く、『日本のことわざ』が何度も文庫化されている。
 随筆集は、どこかに発表したものではなく、一人書いておいて、時おりプリントして学生に配ったりしていたのを、公論社の勧めでまとめたものだという。東大定年退官後のものである。
 たいへんおちついた筆致で老いの境地を描いているのだが、読んでいくと、女子学生の話が妙に多い。特に「S女子大」での教え子の卒業後のつきあいに関するもので、とにかくやたらと慕われていたようである。彼女らと旅行をした時のものも多く、おおよそは女子二人と一緒だが、一人の時もある。ないしは手紙のやりとり、梨などの贈り物のやりとりである。そして彼女らは、恋愛、結婚についての悩みを金子に相談したり、果ては「先生の娘に生まれたかった」とまで言うのである。
 一体に女子大生というのは、しばしば男性教授に対して不思議なあこがれの心を持ちがちであるが、金子の場合は特に甚だしい気がする。そんなにハンサムだったのであろうかと思ってしまう。万葉集が専門だし、国文学など専攻する女子学生には、よほど人気があったもようである。

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井上靖の娘・黒田佳子の『父・井上靖の一期一会』(潮出版社)に、靖の岳父足立文太郎が文化勲章をもらいそこねた日のことが短編「伊那の白梅」に書いてあるとあったが、「伊那の白梅」は、かつて駆け落ちした女の娘が訪ねてくる話であった。足立文太郎のことが書いてあるのは何であろうか。(追記)「比良のシャクナゲ」だそうである。