トクヴィルは困る

 トクヴィルの『アメリカの民主政治』というのは、私が若いころ西部先生が盛んに論及していて、民主主義というのがいかに腐敗堕落をもたらすかということが書いてある、と言っていたのだが、いざ講談社学術文庫の井伊玄太郎の訳を読んだら、難しくてつまらなくて一冊目で放り出した。
 あとで、西部先生とはまるで逆の評価をしている文章を目にしたが、その後井伊訳の中下巻も買っておいた。しかしこれは訳がひどいと気づいて売り払い、岩波文庫の『アメリカのデモクラシー』を買ってみた。ただ、読んでいて面白い感じがしない。「アメリカ人は…」という一般化が妙に胡散臭くて、日本人論を読んでいるような非科学性を感じるのだ。それに二百年近く前の本だから、当てはまらないところも多い。さらに、評価する向きは、その後大国となることなどを予見した、とか言うのだが、予見が当たった本というのを、当たったことが分かった後で読んで何が面白いのか分からない。だいたい戦後日本というのは米国に関する本や言説がうんざりするほどあるので、今さらという気がする。
 それに私は、学問に「古典」なしと思っている。学問というのは日々刷新されるものだからである。哲学には古典があるが、それは哲学が学問ではないからである。ミシュレの『魔女』なんてのもつまらなかった。まあ大学の政治学の教室で、フランス語の勉強で原書講読するのにいい本ってとこかな。