やっぱり村上陽一郎がおかしい

 前に少し問題になった「12世紀ルネサンス」だが、竹下節子さんが『キリスト教の真実』で、ギリシアの哲学はカトリックによってちゃんと保存されていたと書いている。もっとも、それゆえに「暗黒の中世」ではない、というのには賛同できない。美術も文藝も中世には貧弱だったからだ。
 竹下さんは、教科書類に書いてあることが嘘だと言うのだが、村上陽一郎の罪も重いと思う。12世紀ルネサンス以前にも、プラトンアリストテレスはもちろんちゃんとあって、第一ビザンツ帝国というのはギリシアの後継者である。村上は『科学史の逆遠近法』(1982)では、そういうこともきっちり留保をつけて精密に書いている。ところが『やりなおし教養講座』(2004)では、長年学生相手に誇張してしゃべっているうちに忘れたのかいい加減になったのか、ヨーロッパ人はプラトンアリストテレスを知らず、アラビア語に訳されたもので初めて知ったとか、それをラテン語に訳したがギリシア語原典があったがヨーロッパ人はギリシア語が出来なかったとかほとんどでたらめを書いている。「ヨーロッパ人」というのは、フランスとかドイツとかの人間のことだろうが、ビザンツ帝国のことがまるで書かれていない。どうひいき目に考えたって、一般読者をミスリードする文章としか思えないのだ。