黒岩さんの『パンとペン』には、まだ疑問点がある。99p。

 五月二十五日の日記には、鎌倉で療養中の美知子からの手紙を読み、「涙がこぼれる」とある。明治時代に男がこんなことを告白すれば、「女々しい」と非難を浴びても不思議ではなかった。

 まず、堺は日記に書いたのだから「告白」はしていない。また尾崎紅葉の『多情多恨』(明治28)では、妻を失って嘆き悲しむ鷲見洋之介が主人公になっており、確かに作中で、男にしては悲しみ過ぎだと軽く非難されてはいるが、擁護する者もいる。日露戦争出征中に森鴎外が妻に出した手紙は、ずいぶんでれでれしたもので、「とんだデレスケ野郎だね」とある。
 一概に明治時代はかくかくとは言えないのであって、黒岩さんは、堺の「フェミニスト」ぶりを強調せんがため、あらずもがなのコメントをしている、と感じた。