京都府南警察署の大槻という刑事から電話があったのは、四月七日の午後のことだった。何ごとならんと思ったら、一瀬陽子という女が、私を脅迫罪で訴えたという。何でも、一年以上前の昨年1月12日に、一瀬が「2ちゃんねる」に私のことを書きこんだので私が怒り、「必ず復讐はします」とメールしたのであるが、一瀬はその時、「削除依頼を出した」と言って謝ってきたのだが、その「復讐をします」という片言隻句をとらえて脅迫だといっており、弁護士がついて告訴状を出してきたというのだ。
いや実に悪質な嫌がらせである。私は、脅迫罪というのは、殺すとか殴るとか、内容がなければならないし、五万円払わなければ何々するというもので、これはそのどちらの要件も満たしていない、そもそも警察で受理すべきものではない、と言ったが、大槻は「いや、それが、なると言うんですよ」と言う。その上大槻は、上京して私に事情を聞きたいと言うから、そんなものは電話で十分であると言ったのだが、行く行くと言い張るので、翌日電話して、それなら事情を書いた手紙を出す、と言い、それを書いて出したのである。
だいたい一瀬は、音信が途絶えた後、七月になっていきなり、あなたの藁人形を作って五寸釘を打つとか、あなたに殺されたようなものだと遺書に書くとかメールをよこしたのである。こっちの方がよっぽど脅迫である。
だいたい私が、マサシの書き込みを持って高井戸警察へ行った時など「いたずらでしょ」などと言って取り上げて貰えなかったのである。なのに瀬々敦子が行くと相手を割り出すというのは、いかなる差別待遇であろうか。弁護士がつくとムリが通るのであろうか。
さて手紙を出してこれで済むだろうと思っていたら、22日頃だったか、また大槻から電話があり、「あのー、この『復讐』というのはですね、内容としては何を考えておられたのですか」と訊く。私は「何もないです」と言ったのだが、冗談ではない。内容がなければ脅迫罪にならないのに、この刑事は、後から内容をくっつけようとしている。こんなのは明らかな人権侵害であるから、私はその後京都府警察へ電話して苦情を言った。
しかるに28日午後一時前、いきなり大槻は、部下の若い刑事とともにいきなり自宅を訪れたのである。本来なら追い返してもいいのだが、仕方なく上へあげた。任意での事情聴取だというので、「では録音してもいいですか」と言うと、「いや、それは、困ります」と言う。おかしいではないか。私の家で、聴取に来た刑事とのやりとりを録音する権利が私にはないのか、と反問すると、いや、ですからそれは、私のほうのお願いで、と言うから、「じゃあ録音していいんですね」「いえ、それは」。というわけで録音した。
一時間ほどいて、この大槻暁なる、刑事部凶行課長は、三度ほど、「復讐」の内容は何か、と訊いた。なるほどこれでは冤罪が生まれるはずだと思ったね。自宅で、こんな下らないことでもここまで食い下がって、私もあやうくそのしつこさに負けて、何か言うところだった。そりゃ殺人罪とかで逮捕されて、やったといえば帰してやるとしつこく問われたら、ウソの自白もするわい。まったく警察の横暴である。大槻は「脅迫罪になるという弁護士さんもいれば、ならないという弁護士さんもいる」などと言う。なるとか言うのはそりゃ着手金が欲しいだけだろう。私は、いかな判例に照らしてもならないと言い、判例があるのかと訊いたら「判例は知りませんが」と言うが、もう警察官の存在自体が不条理だ。
で、残りの時間は何を聞いたかといえば、生まれはどこか、とか(私が、茨城と答えたら、大槻は「茨城のイバってのはどう書くんだ」と言い、もう一人は、何やらボディーガード風にガタイのある男でそれまで沈黙していたが、いきなり「仙台」と言って、大槻が、え?と訊き返すと、「茨城は仙台」と言う。「いや茨城は水戸…。仙台は宮城だな」という珍問答を私は呆れて訊いていたが、これも録音されている)、趣味まで訊かれたが、このざまだから、多分この大槻、私が「ブログ」と書いたのを「ブログ」を知らずに全然理解していなくて、私が仕返しに「2ちゃんねる」に一瀬の名前を書くとかそういうことはしていない、などと言うから、いや2ちゃんねるになんか書きませんよと言ったのだが、多分頭の中では何も整理されていないだろう。
やっと帰ることになって大槻は、「やはりこの、実際に会って、心と心を通い合わせないと分からないことが」などと言ったが、私は白けて黙っていた。私はむしろ、こんなくだらないことで出張費を使っていることを問題にしたいよ。
(小谷野敦)
http://www.geocities.jp/linda_ecstasy/
これがヨコタ村上の新愛人か? メルアドを見て確信する。