『土』をめぐる野心

 長塚節の『土』の会話部分は、私が生まれた地方、というより母の実家がいちばん近い茨城県の方言をふんだんに使って書かれている。母の郷里には子供の頃何度か行ったし、母の長兄一家などは今もその方言で話すから、私にはこれが読める。
 しかしアクセントまでは、活字面からは分からない。それで私は、自分による朗読を出そうかと考えていた。するとふと、宮島達夫による『長塚節『土』会話部分の標準語訳と朗読』というのが出ていることに気づき、近所の図書館を通して借り出した(三ツ野くん、国会図書館へ行かなくても書籍はこういうことができるんだよ)。
 するとCDもついていて、宮島氏自身が朗読していたのであったが、同氏は言語学の偉い先生らしく、生まれは私とかなり近かった。だが、聴いてみると、やはりインテリだから、泥臭さが十分に表現されていない。
 中に、宮島は時代的にも長塚よりずっと遅く、また16歳から東京近辺に住んだから郎読者として必ずしも適格ではない、とあった。そう言ったら私だって適格ではない。
 いちばんいいのは、伯父、すなわち今もそのあたりに住まう母の長兄に朗読してもらうことであるが、はて…。何しろこの研究書は「環太平洋の「消滅に瀕した言語」にかんする緊急調査研究」とあるから、これはもう、サンプルなりと録音しておいても…。