猫間中納言の姫君

 猫間中納言の姫君が何か書いて消してしまったが、
 私は自分の書いたものを誰でも読んでいる、などとは思っていない。しかし、たとえば私に、単行本執筆とか連載とかの仕事を頼んできた人が、私に「××」という著書があることを知らなかったりしたら、それはちょっとむっとする権利はある。
 以前、前野みち子さんという名古屋大の先生の『恋愛結婚の成立』が面白かったので、手紙を書くかしたのだが、前野さんは私の名前も知らなかった。まあちょっと苦笑したが、比較文学会員とはいえ、駒場とは関係ないし、西洋研究ひとすじの人だし、そういうのは別にいい。
 しかしデビッド・ノッターのごとく、私の著述のごく一部だけ読んで「混乱している」などと言ったらそりゃあ抗議してしかるべきだし、実際ノッターは以後何の返事もよこさない。
 それから前に若林幹夫という人が、漱石に関する本を送ってきたのだが、中には私の論考などひとつも参照されていなくて、何のつもりで送ったのかと訝しく思った。
 仮にその逆の例を考えて、私が誰それに何か言って、実はその人の著作に答えに当たることが書いてあったら、言ってくれば私は謝る。もし、そういう場合に私から何の返事もなかった、という人がいたら、教えてもらいたい。ただし、在野の研究者で、支離滅裂なことを書いたものを送ってくる人とかがいるが、これはもう怖いから返事をしていない。  
 もしかして姫君は宮下規久朗氏のことでも言っているのかもしれないが、私は別に「俺の本を読んでいないとはけしからん」とか言ったわけではなくて、その説は私のこれこれで、と伝えただけであり、宮下氏からは丁寧な返事が来ている。むしろ、お前はあれを読んでいないだろうこれを読んでいないだろうとかさにかかって攻撃しに来るのは姫君のほうではおじゃりませぬか。

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週刊ポスト』で坪内祐三四方田犬彦『歳月の鉛』の書評を書いていた。しかし最後に「大学院での秘話も四方田ならではのもの」というのは、どうかなあ。あそこに特筆すべき秘話なんかなかったような気がする。四方田はあの本では、明らかに、芳賀、平川、小堀といった人たちに言及するのを避けているもの。もちろん由良先生が口を極めて罵倒していたというのは小堀さんだろうが…。

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2ちゃんねる」「社会学」「小谷野敦」スレで一人で暴れているやつがいるが、たぶんあの人だろう。警察に通報しておいたが、今のところ殺人予告ではないが、いちおう監視しておくとのこと。

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以前は送ってきていたのになぜか送ってこなくなった『Scripta』の連載で上野千鶴子が私を批判しているというので、おっしゃあ反論書かせてもらうぜと思って人にファックスしてもらったら、大したことないのでやめにした。前のほうで、「コミュニケーション・スキルを磨け」と言ったら批判された、とあり、注には、小谷野から疑念を呈された、とあって、何も反論していない。あと私と内田ジュが、誰もが結婚できる時代にノスタルジーを感じていて、時代錯誤だ、とかいうのだが、私は「ノスタルジー」なんか感じていない。
 あのですね、地方の良家(娘が自転車に乗ることを許さない医者)に生まれて、男に不自由したことなく、ごろにゃんできる相手を確保できて、東大教授で、山梨県に別邸持つお金持ちで、というような人がそういうことを言ってですよ、30代半ばで大した学歴もない女が、結婚して社会的地位を安定させたいという人がたくさんいる、そういう現場からはまるまるずれきったことを言っていて、何になるのであろうか。もうこういうのはイデオロギー上の「負け犬の遠吠え」である。
 もっとも上野さんと私というのは、既にプロレスやってるようなものになってしまったわなあ。上野さんが悪役レスラーみたいな。で私が「お前に庶民の、切実な結婚願望など分かるか!」って言う、みたいな。