「大衆」からの手紙

 北原みのりさんが『美人作家は二度死ぬ』の書評を書いてくださった。絶賛に近く、まことにありがたい。北原さんは、まじめな人だと思う。

http://blogs.yahoo.co.jp/vraifleurbleu39/28543560.html
 それにひきかえ、山下晴代さんは何を言っているのか。どうやら昔『すばる』に小説を書いた人らしいが、瀬沼茂樹私小説についてこう書いているからそうなのだ、というのは、学問というのは変化するものだということがまるで分かっていない。それに碌に私の書いたものを読みもしないで、どうやら『里見とん伝』だけ拾い読みしたのか何なのか、テクストが読めないとかいちゃもんをつけるし、それに今回は私は「匿名」はいかん、などと言ってないのですがね。だから何度も言うように、ネット上の言説というのは全世界に向けて発信されるのだから、アマゾンのレビューといえど無責任は許されないってことで、単に私は反論しているだけなのに、反論してもいけないというのだろうか。まったくおかしな人だと言うほかない。

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 ボーモン夫人の『美女と野獣』(角川文庫)を読んだら、これは単に表題作にコクトーが独自のグロテスク美を見出しただけで、18世紀の教訓物語集だったから途中で放り出した。ところで訳者鈴木豊は解説で、ボーモン夫人が、「1780年」大革命の嵐が吹き荒れる中、息を引き取ったと書いている。ん?

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 『評論家入門』を買ったらしき、淡路島に住む中高年女性から手紙が届いた。出版社から回送されてきたもので、おそらくインターネットなど見ない人だろう。本文は全然分からなかったがあとがきが面白かったと言い、中村うさぎさんとの対談を読んだというのは、今度文庫化される予定の『美人とは何か』のことだろう。それを読んで、うさぎさんも驚き呆れていますが、こんな純粋培養されたような女性観を抱いていたら、結婚できないのではと思っていたら、結婚したと聞いて驚いていたら、離婚したというから、さぞトンデモない結婚生活だったのだろう云々とある。前の「結婚」かよおい…。
 うさぎさんとの対談で別に変なことを言ったわけではないのだが、まあ東大とか出た人でなければ結婚できないという、いつものあれが、この「大衆」女性には異様に思えたのだろう。この女性は、うさぎさんのことを、なんでこんなピン藝人みたいな名前なんだろうと書いているが、ピン藝人って何だ? 大衆用語だろうか。さて、うさぎさんでは、驚いたのは私の方で、たとえば、

 小谷野 女の人って、セックスすると、結婚を迫ったりするでしょう。
 うさぎ やだよ、一回セックスしたくらいで結婚なんて。

 と話はもろに食い違っているのである。うさぎさんも知性の高い人だが、こと男女問題になるとまったく常人とは異なる発想になってしまうのである。
 最後に表がついていて、「(寅さん)あつみきよし」「菅原洋一」「海老蔵」「茂木健一郎」「小谷野さん」とあって、知性、常識度、顔の良さ、色気、で採点がしてあるのだが、この人選が実に「大衆」である。きっと茂木健一郎と私とを同種類の人間だと思っているのであろう。しかし菅原洋一って…。なおこの人の名前を検索してみたら、「世界一短い感想文」で入選していた。ああ大衆よ…。
そういえば浅羽通明の『ニセ学生マニュアル』に、荒俣宏杉浦日向子と結婚して一年後に離婚したあと、地方大学の先生が荒俣の話をして、何だか最近きれいな人と結婚したそうですね、と言ったという話が伝えられ、地方では情報は一年遅れで伝わるのだろうか、とあった。