ようつべで「トリビアの泉」を観ていると、2004年の放送で、太宰治の「走れメロス」は、太宰自身が借金を返すために走り回ったことを小説にしたものだと言っていたが、これは「ガセビア」である。
檀一雄の『小説太宰治』に書いてあるというのだが、「走れメロス」が古代ギリシアのダモンとピチアスの話をシラーが詩にしたのを太宰がそのまま小説にした、まあほぼ盗作であることは、この当時だって分かっていたし、猪瀬直樹の『ピカレスク』のようによく読まれた本にも書いてあった。私も太宰がネタにした『新編シラー詩抄』の訳者・小栗孝則を主人公に「「走れメロス」の作者」という小説を書いたこともある(『東十条の女』幻戯書房所収)。
この時は、荒俣宏もMEGUMIも参加しておらず、異論を唱えそうな人がいないところでガセビアを広めるのは実に許しがたいことであると思った。さらに許しがたいのは、専門家として登場してこのウソを認知した中央大学教授(当時)の渡部芳紀である。
(小谷野敦)