だいたい直江兼続を主人公にするなら、南原幹雄か童門冬二の原作があるだろうに、なんでまたと思いつつ、童門冬二(1927- )について調べていて驚嘆した。童門は元都庁職員で、今年82歳、55歳過ぎてから厖大な量の著作を書き始め、主として歴史人物もので、一時期は成美堂から『親鸞 歴史と史蹟をたずねて』のような「歴史と史蹟」シリーズを出していたが、ほかに「歴史人物に学ぶ経営術」みたいなビジネス書を量産、単行本は学陽書房人物文庫や成美文庫、集英社文庫やPHP文庫に入り、また別の文庫で出るということをくり返し(これは量産作家にはよくあること)、『春の波濤』以後は、大河ドラマにあわせてきっちり2,3冊は関連書を出し、1997年からは、日本放送出版協会、即ちNHK出版から関連書を出すようになっている。
・大政奉還 徳川慶喜の二〇〇〇日 1997
・真説・赤穂事件 →元禄繚乱 1998
・徳川三代諜報戦 →葵・徳川三代 1999
・決断 蒙古襲来と北条時宗 2000
・勇断 前田家三百年の経営学 →利家とまつ 2001
・武蔵 兵法革命家の生き方 2002
・三番手の男 山内一豊とその妻 2005→功名が辻
・戦国一孤独な男−山本勘助 2006→風林火山
・幕末の尼将軍−篤姫 2007
・参謀力 直江兼続の知略 2008
2003、2004年が抜けているのは、新撰組はもともと童門の専門分野で、義経はよく分からないが童門は近世が中心だからか。
何しろ著書は概算で300点を超えていて、時にはどれがどれの文庫化か分からないし、内容はあちこちで重複しているだろうし、月刊というか、最盛期には年に23冊も出している。『童門式資料整理法』とか『童門式超時間活用法』なんてのもあるし、まあそういうのも見てみると、
その女に、
(手をつけて…)
しまったのである。
式の池波正太郎風分かち書きが多い。
上杉鷹山のブームは童門の小説から始まったようだが、小泉総理が『米百俵』の話をした時にはやはり関連書を出すなど、実に無節操と言えば言える。
しかし、これは文筆家として、プロに徹した、それなりに立派な生き方ではないかとも思える。若い頃芥川賞候補になっているが、直木賞候補にはなったことがないし、作家としての格が低いから大河ドラマの原作にもしてもらえないのかもしれないが、「なぜ俺の原作を使わない!」などと言わず、粛々と関連本をNHKから出す。大人である。
まあ歴史上の人物について簡単に知りたい時は、童門に限らず、今はPHP、学研、人物文庫など一通り揃っているから、それを読めばいいし、確かに司馬遼太郎や宮尾登美子のような文学性はないにしても、こういう「歴史人物作家」たちは、それなりに日本人の歴史知識向上に貢献していると思う。
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千葉先生と明里先生から『谷崎潤一郎 境界を超えて』、秦恒平先生から『自筆年譜(一)』(湖の本)をいただいた。後者にはびっくり。後世『秦恒平伝』を書く人は、これを参考にせざるをえないだろうが、これを参考にして書いたらただの丸写しになってしまうだろうというものだ。