文句は単著を書いてから

 『ユリイカ』12月号は「母と娘の物語」。でも母娘関係がいかに恐ろしいか、最初に力説したのは岩月謙司なのだから、それは忘れちゃいけないよ。
 なかに金田淳子の「その後の『ホームレス化する大学院生』」というのが載っていて、これがなかなかおもしろい。K田J子氏はすでに大学院生ですらなく、姉と母が共同ローンを組んだ分譲マンションに母とともに住んでいるという話。
 もはや、日本中で(いや世界中で)人文系の大学院は地獄と化しつつある。上野千鶴子ゼミなんて人文系みたいなものだ。その地獄を描いて、文章もなかなかよろしい。金田氏は小説を書くと存外おもしろいのではないかと思った。
 もっとも、もうこの春頃から、『ユリイカ』の「今月の新刊」のところに『やおい総論(仮)』金田淳子」と毎月のように載っているのはどういうことであるか。これを出しさえすれば印税だって入るだろうに。予定された単著も出せないで、ビンボー話をするのはよろしくない。
 『ユリイカ』荒木比呂彦特集のアマゾンのレビューを見ると、まるでいじめのごとく、荒木にインタビューした金田への罵倒が並んでいる。果して金田淳子は甦生できるのであろうか。金田は私の悪口を言っていたようだが、金田よ、君が自立すべきなのは上野千鶴子信田さよ子ではないのかね。
 大学院という世界へ入ってしばらくいついてしまった者は、親との関係だけでなく、「師匠」との関係に呪縛されるのだ。まあとにかく、愚痴は単著を出してから言うんだね。
 (小谷野敦