今、書店の「平積み」という言葉が分からない人は、亜インテリでもいないだろうが、1980年頃にはこの語はあまり知られていなかった。
年代ははっきりしないのだが、NHKの番組で、落語家を集めて、『笑点』の大喜利のまねみたいなクイズ番組をやっていて、そこで、「本屋の用語で『平積み』というのがありますが、これはどういう意味でしょう」という問題が出たのである。その時、真ん中へんに三遊亭円楽がいて、「こりゃあ、知ってるな」と言って、他の人が間違った答えを言うのを聞いていて、「親戚に書店をやっているのがいましてね、それで知ってるんですが」と言いつつ説明したのである。
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カナダにいた時鶴田欣也先生が、英語でだが「北米の日本文学研究者に、日本近代小説のベストを挙げさせたら、一位になったのが何だったと思う」と言い、『黒い雨』だ、と言ってから、苦々しげな顔つきで「I know the reason」と言ったことがある。これは1966年に刊行されて、69年にはジョン・ベスターによって(SF作家のアルフレッドじゃないよ)英訳されている。恐らくペーパーバック版の裏には、これだけの絶賛が書かれている。
I would recommend Black Rain to every reader, even the squeamish. " -- Spectator
"Immensely effective.... This is a book which must be read." -- Books and Bookmen
"Its subtle ironies and noble, unsentimental pity are a reminder of the strengths of Japanese fiction." -- New Statesman
"The most successful book yet written about the greatest single horror inflicted by one group of men upon another." -- Julian Symons, Sunday Times
"This painful and very beautiful book gives two powerful messages--of drastic warning, yet also of affirmation of life." -- John Hersey
最後のジョン・ハーシーはむろん『ヒロシマ』の著者である。
『黒い雨』には、米国への非難は出てこない。佐多稲子の『樹影』には出てくる。つまり『黒い雨』は、原爆投下に罪悪感を抱きつつも、真っ向から祖国を非難されるのは不快だという米国人にとっては、受け入れやすいのだ。鶴田先生が不快げだったのは、そのせいである。
井伏はこの作品で、世界的な作家になったのである。