十日から自殺予防週間だそうだ。私はこの自殺予防キャンペーンというのを実に胡散臭いものだと思っている。自殺する人間には、それぞれ原因があるわけで、その原因を取り除かないで、自殺だけ止めても意味ないだろう。
たとえば鬱病での自殺というのは、どうしても防げないことはある。医者にかかっていない者なら、医者にかかるようすればいいし、藪医者にかかっていて困っているならいい医者にかかれるようにすればいい。
あるいは借金苦による自殺というのも多い。私は借金をしない主義だが、現代の資本制社会というのは、人が借金をするものという前提でできているし、「ローンを組んで何ちゃら」などと、愚か者に借金を勧める業者だっているわけで、街金なんてのは自殺者製造業者みたいなものだ。本気で自殺を防止したいなら、無理な借金はやめましょう、って政府が言えばいい。聞いたことがないね。あるいは宝くじなんて、期待値を計算したら絶対当たらないんだから、政府ぐるみで貧乏人をさらに貧乏にしているようなものだ。
あるいは過重労働で鬱病になったり自殺したりする人も最近増えているが、政府はそれを取り締まろうとはしない。あるいはいじめによる自殺など、自殺した後では人は騒ぐが、現に行われているいじめに対しては何もしないのが世間だ。実際私は大学教員のいじめ常習者二人を名をあげて非難しているが、それでその二人がどうにかなったわけではない。
要するに世間も政府も、本気で自殺を予防する気などないのである。現に私は、あの時阪大を辞めなければ自殺していた、と何度も言っているのに、なぜ辞めたのか、などという者がいるのは、どういうわけであろうか。
(小谷野敦)