子供を叱って何が悪いか!

 神奈川県のほうで、ふざけていた高校生を殴った巡査長が逮捕されて、しかし世間では巡査長を支持する声が多く、その後、拳銃型のライターを乗客に向けていて、巡査長はいきなりびんたしたとか、さらには、車内には乗客はいなくて、車内からプラットフォームにそのライターを向けていただけで、車掌に注意されてしまったところ、隣の車両から見ていた巡査長が、出てきていきなりびんたしたとか、情報が二転している。
 ところで昨年2月23日のことだが、私は読売文学賞の贈呈式パーティに行ってきた。その帰りの電車内で椿事が起きた。明大前から永福町までは、一駅間が長い。やや混んでいて、私のすぐ脇で小学校四、五年くらいの男児が二人、ふざけている。その向こうに年長らしい女児が一人で、これも連れらしい。男児二人は、ばたばたたたきあって、こちらにも当たる。それが続くので、「ばたばた動くんじゃない!」と叱りつけた。子らはたちまちしゅんとなったのだが、ドアの際にいて携帯を覗いていた31,2と思しい男が、まるで待っていたかのように間髪を入れず「子供に怒ってどうすんの」と、何やら達観したようなニヒルな口調で言った。私が二瞬間ほどたってから「誰に怒れってんだ」と言い返したら、やつ、片頬で「ふん」と笑ってまた携帯に見入った。そこで「おいてめえ、答えろ!」とやると本当に喧嘩になって、勝つ自信がなかったから、黙っていた。
 おい覚えのあるやつ、今からでも遅くはない、名乗って出て、子供を叱って何が悪いのか、説明しろ。電話なら俺も怖くないから。
 (小谷野敦

追記:斎藤環さま、『新潮』誌の連載で拙著谷崎伝に触れてくださりありがとうございます。あの雑誌に私の名前が出るのは、初めてのことではないかと思います。