原武史の軽薄

 その、私の本の書評が載っているので買ってきた「週刊現代」に「リレー書評」で原武史が見開きで書いていた。
 これを読んで、かねてから軽薄な男だと思っていた原武史が、むしろ前以上に軽薄になっているのを感じたのである。
 天皇制反対の左翼なのかと思えば、保阪正康やら福田和也やらと対談して、天皇制存続を前提として話すし、ひと昔前なら「腰抜け」と左翼陣営から袋叩きにあっていたはずだ。
 その書評は、「もしあなたが大学で思想史を学びたいなら、北大を勧める」(大意・以下同)と始まる。「北大はいま三十代の優秀な若い学者が集まり、刺激的な著作を次々と世に問うているからだ」。へえ、誰だろう。ここで取り上げられているのは、真壁仁と中島岳志の著書で、この二人は法学部准教授だ。ほかに誰がいるのかなあ。川島真が優秀なのは私も認めるが、東大へ行ったし、あとは著作を出しているといえば桑原朝子くらいだ。もしかして文学部とかもまとめて言っているのか? だいたい、大学へ進学する人間が、いちいち、そんなことで進学先を決めたりはしないでしょう。しかし最後には、受験生の皆さん、自分のいる明治学院大学も悪くないですよ、と言っている。北大へ行くか東大へ行くか、などと悩む学生が、明治学院なんか行くわけないだろう。分かっていて、ジョークのつもりかしらんが、原の軽薄さがよく現れている。
 ところでこの真壁仁なる若い学者だが、詩人と同姓同名なので一瞬驚いた。たぶん文学的教養のない(鉄道的教養はある)原は、真壁仁のことなど知らないのだろう、同姓同名だが、などとは書いていない。
 その真壁の著『徳川後期の学問と政治』の紹介だが、丸山眞男に対する批判に反論している。なんだか意味がよく分からない。多分、紙幅が足りなかったのだろうが、まあ、それはいい。
 中島の「パル判事」本については、活字にする予定なので、書かない。
 最後に、原はまた呆れたことを書いている。「内部事情を暴露すれば、少し前まで」、北大は都立大、学習院大などとともに「植民地大学」などと呼ばれていて、「東大を出た助手や大学院生を、業績よりはむしろその学歴を重視し、助教授として採用する大学だったのである」。しかし、真壁(都立大院)や中島(京大院)は東大を出ていない、なのに採用されたのは「彼らの傑出した業績が、正当に評価されるようになったからだ。喜ばしいことではないか」。
 くわーっ。なんと偽善的で、しかも事実誤認を導く(ミスリーディング)な文章。これでは、北大はこれまで、東大出身者しか採用しなかったみたいではないか。亀井秀雄は北大学部卒で北大教授だった。別に学習院や都立大に限らず、主要大学にはたいてい「東大閥」があるものだが、だからといって全員が東大卒などということがあるはずがない。こんなのは、北大や都立大や学習院大に対する名誉毀損である。私の知る限りでも、押野武志は東北大大学院から、また私が少し教えていた阪大言語文化研究科からは真崎睦子さんが、北大に採用されている。それもみな、傑出した業績が評価されたからだということなら、それでもいいが、既に90年前後から、京大出の上野千鶴子や北大出の小森陽一を東大で採用しているというのに、わざとらしい。だいたい、北大にいて「東京へ帰りたい…」と思っている人だっているだろうに、山の手の大学に勤務していて、いい気なもんだ。
 なんか、『大正天皇』がトンデモ本呼ばわりされている、とか言っていたが、そりゃそうだろう。あれが「傑出した業績」でないことだけは確かだね。