和辻哲郎の青春

 勝部真長(みたけ)の『青春の和辻哲郎』を読んでいる。谷崎との交遊が中心なのだが、谷崎伝を書くとき、見忘れていたのだ(そういう本があることは知っていた。だって『遊女の文化史』と同じ月に同じ中公新書で出たんだもの)。もっとも、谷崎の文章や書簡がふんだんに引用されているので、特に新発見はない。
 勝部は、復古的な倫理学者だが、それにしてはゴシップ風でおもしろい。特に、1971年、雑誌『心』で、竹山道雄、市原豊太、林健太郎らが、若い頃の和辻の話をして、けっこう藝者遊びなんかもしたらしい、と言ったのが、存命だった和辻照を怒らせ、そんなことはないと、当時を知る亀井高孝の手紙まで載せて反論したというのが面白い。
 ところで照は1977年6月に没したのだが、ちょうどその頃、今東光も病んで、『中央公論』連載中の谷崎回想記『十二階崩壊』が中絶していたのだが、その『十二階崩壊』には、和辻と武林無想庵が男色関係にあった、と谷崎が東光に話す場面がある。位置からいって、三月以前には載っていたはずだが、単行本になったのは78年1月で、もし和辻照夫人が生きていたら、またしても激怒したのではなかったか。

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佐藤優が対談したくない相手は、松本健一だろうな。大川周明だって蓑田胸喜だって頭山満だって、松本のほうがずっと前から研究しているんだから。
 (小谷野敦