成相夏男

 図書館で、1961年の『群像』を見ていたら、第四回群像新人賞の発表があって、評論部門当選作「斎藤茂吉論」と、小説部門優秀作「逆縁」が載っていたが、その著者がいずれも「成相夏男」である。ありゃりゃと思って、受賞者紹介欄を見ると「本名・上田三四二」とあった。既に歌集、短歌評論の本は出していたが、筆名で応募したらしい。次の号に授賞式の模様が載っていたが、相変わらず「成相夏男」だった。
 もちろん「斎藤茂吉論」単行本は上田三四二名で出ている。当時38歳。しかし、評論と小説を同時掲載なんて、あまり例がない。ところで予選通過作品を見ると、小説部門で三枝和子佐木隆三、中川裕朗、松原一枝、評論部門で小笠原克、松本徹の名があった。私も一度、群像新人賞評論部門でこういう所に名が出たことがある。

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『すばらしき愚民社会』元本が出たときには日本にはナポレオン三世の伝記がなかったのでそう書いたが、その後鹿島茂の伝が出て、すぐ読んだが訂正を忘れた。今度増刷したら訂正する。
(小谷野敦)