すべては海になる 中央公論2015年2月

 サトエリつまり佐藤江梨子が私は好きなのだが、これは『キューティハニ
ー』を観て以来である。ふだんの如月ハニーキューティハニーに変身して
からの声の違いが見事だ。
 「すべては海になる」は、話がどこへどう転がるか分からない。山田あか
ねの原作を自ら映画化したというが、あまりヒットはしなかったようで、や
はりいい映画は存外に隠れているものだと思う。サトエリは文化的な雰囲気
の書店員で、自分でコーナーを作ってポップを作ったりしている。恋愛特集
みたいな並びだったが、残念ながら私の本はなかった。
 劇中劇みたいな形で、ベストセラー作家の奇妙な小説が挿入される。これ
も映像になって、安藤サクラが演じている。安藤サクラも好きな女優である
。さてこの書店で、万引き常習犯の中年婦人がいる。女の夫は学者らしいが
、それにしては鎌倉あたりの一戸建てに住んでいて、親の代からの金持ちで
あろうか。サトエリは、この家庭とかかわりを持ち、柳楽優弥がふんするそ
この息子の相談相手みたいになる。柳楽といえば、子役で高い評価を得たが
、ここではわりあい台詞が下手であるが、映画の傷にはなっていない。
 すさんだ父母の関係が嫌になった少年は家出をするが、サトエリが彼を自
宅へ連れて行く。サトエリはかつて性的に乱れた生活をしていたが、そうい
う雰囲気は感じさせない。少年は居間のソファで寝ようとするが、寝室へ下
がるサトエリが、半裸に近い姿で、やってもいいのよ、と言う。別に妖婦風
にではなく、ごく自然なのである。観ているほうもどきどきする。だが少年
は、とまどいから、家を飛び出してしまい、サトエリは後を追う。
 二人は夜明けの海岸にたどりつく。岩の間に座っていると、海岸巡視の警
備員が来て、ここはほどなく潮が上がってくるから危険だと言い、二人は立
ち去る。サトエリは、今やりたいって言ってももうダメよ、と言う。
 いつだってサトエリは魅力的だが、この映画ではひときわすばらしい。私
も少年時代にこんな女性に誘惑されたかったと思ったりする。