堀田善衛の窃盗

「夕刊読売」1950年10月24日(火曜)
芥川賞候補が窃盗」
 二十三日夜九時四十分ごろ品川駅第六ホームで積込み準備中の手荷物からトランク一個をかっぱらって逃げようとする男を同駅荷物手斎藤善勝(二四)さんが発見、追跡して捕え水上署に突き出した。調べたところ同人は自称作家堀田善衛(三三)=神奈川県逗子町新宿一七八一=といっているが、堀田は某雑誌に“祖国喪失”を発表、芥川賞候補に選ばれたことがあり同署で追及している。

 年譜によると堀田は同年七月、読売新聞社外報部に一週間勤務、11月に『モーパッサン詩集』を刊行、12月『新潮』に「捜索」を発表しているが、ほかに生計がたつようなことはしていない。翌年11月『広場の孤独』を刊行し、52年1月芥川賞を受賞している。