管野スガの遺体

 黒岩さんは、処刑されたあとの管野スガの遺体を、堺利彦がひきとったと、さらりと書いている。しかし、引き取ったのは荒畑寒村安成貞雄で、このことは『寒村自伝』に詳しく書いてある。『寒村自伝』を見ていないはずはないし、堺が引き取ったという典拠も分からない。(神保町のオタどんの指摘で、寒村と安成は見に行っただけだと判明したので訂正)
http://d.hatena.ne.jp/hyoubyoutei/20101202/p1
 しかし残念ながらこの人の言うように、黒岩さんが生きていたら、私の批判を喜んだとは思えないのだ。前にも触れたとおり、渡辺京二の『逝きし世の面影』を名著だなどと書く人である。ただ、私が徹底批判していることを知らなかった可能性もないではないが、読売で読書委員会があるのだから、それはないだろう。
 政治的にも、九条擁護、だがそれをつきつめて考えた様子はない。黒岩さんは、長年『たいまつ』を刊行して来たむのたけじへのインタビューを、岩波新書として刊行している。ここでむのは、憲法九条というのは、日本から交戦権を奪った恐るべきものである、ということに日本人が気づいていない、と言っている。それはいいのだが、それでいてむのは、九条護持の立場で、世界には軍隊を持たない国が三十八カ国あると言う。だが、私が調べた限りでは、三十八はない。あるいは、軍隊ではなく保安隊、警察隊といったものがある小国も数に入れたものか。いずれにせよ、それはソロモン諸島とかミクロネシアといった太平洋の、セントルシアのような西インド諸島の小さな島国、リヒテンシュタインアンドラといった、隣国に軍事を委ねている小国であって、日本の参考にはとうていならない。コスタリカアイスランドが、せいぜいいくらか大きい国だが、いずれの国も、万一軍事的有事があれば、米軍ないしはNATO軍がすぐにやってくる国である。
 そういう点で、政治思想について突き詰めることはできない人だった。まあ、世間の物書きの中で、そういうことのできる人はごくまれであるが。しかし、田口ランディがブログの代筆者かどうかは知らんが、田口ランディの友達だったというのは、不名誉だな。

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有島武郎事典』の里見とんの項目には、私が否定した「小説の小さん」が書いてある。伊藤玄二郎、里見とん伝読んだはずだが忘れてしまったのか。
 その後伊藤氏と電話通じたが、やはり忘れていたらしい。なお参考文献が削除された件は、字数の関係でということだったが、著者に無断でそういうことをするというのはどうであるか。また学術書としてそういうことをするというのはどうであるか。