大屋多詠子「馬琴と演劇」アマゾンレビュー

困ったことである
星3つ - 評価者: 小谷野敦、2021/05/21
著者は1976年生、東大文学博士、青山学院大教授の近世日本文学者。これは700ページを超える博士論文の大著で、演劇以外の馬琴の論文も入っている。しかし「弓張月」の刊行が択捉島襲撃と重なり海国意識が萌芽していたというのは「佐藤悟」の指摘ではなく、山路愛山の指摘ではないか。

 あと「馬琴と国家」の章は、馬琴と王権・南朝びいきとか、辺境意識とか、武国意識とか書いてあるんだから、私の「二重王権」や「海防思想」を無視するのは快なりとは言えない。私の名前自体は343pにも出てくるが、里見ー神余の関係についてのメタフォリカルな読解を近世文学会は拒んでいる。だがそういう態度からは、国文学は近代的な学問たりえないであろう。