プロレスの味方

大学一年の時のことだ。同じクラスの男が数人で雑談していた。愛知県から一浪で入ったNという男が、プロレスの話を始めた。そこへ、津金沢というやはり一浪の東京の高校から入ってきた男が、「プロレスなんて、八百長でしょ」と言った。するとNは、「まだこんなこと言ってるやつがいる!」と叫んだ。村松友視の『私、プロレスの味方です』が出たのが二年前で、プロレスは見世物であってそれを踏まえて楽しむべきものだというその趣旨は、少しずつ浸透していたし、私も知ってはいたが、津金沢は、そう鈍なほうではなかったがちょっとそのへんの世間知が足りなくて、その時Nからかなりバカにされて、腐っていた。

 津金沢は、本当は文1か文2に行きたかったが自信がなくて文3を受けたというような男だったが、それから在学中、プロレスを観たり麻雀を覚えたり、懸命に「普通の大学生」になろうと努力していた。その根底にあったのはNの「まだこんなこと・・・」とかそういう言葉だったのだろう。