新聞検索をしていたら、1950年2月24日の「読売」に、北條誠が『小説新潮』二月号に載せた小説「浮名ざんげ」が、伊藤和夫(53)という人が昭和3-4年に『日活画報』に連載し、のち映画化された「浮名ざんげ」と同一題名、内容、主題歌も同じというので告訴するとある。
映画のほうは、「日本映画データベース」で見ると、
1929.10.11 神田日活館/日本館
14巻 白黒
監督 | ................ | 三枝源次郎 |
脚色 | ................ | 山本嘉次郎 |
原作 | ................ | 伊藤昭夫 |
撮影 | ................ | 永塚一栄 |
配役 | ||
三好光太郎(大学生) | ................ | 神田俊一 |
田代幾太郎(三好の友) | ................ | 南部章三 |
田代安子(田代の妹) | ................ | 佐久間妙子 |
芝千代(歌沢師匠) | ................ | 酒井米子 |
桜川半次(幇間) | ................ | 村田宏寿 |
娘お美津 | ................ | 徳川良子 |
七蔵(仕事師の頭) | ................ | 谷幹一 |
野村(安子の婚約者) | ................ | 犬上辰朗 |
となっている。伊藤昭夫とあるがこれは誤りか。さてそこで北条の小説と『日活画報』の一部を取り寄せてみたが、どうもまったく違うものである。北条のほうは戦後のある会社で、前の社長だった河田が落ちぶれて捨扶持をもらっていて、総会のあとで落語をやるというところへ、河田の愛人だった千代という、今の社長の愛人になっている女がやってきているのを、昔を知る社員が見て義憤に駆られるが、河田は意に介せず「心眼」を演じるという話。映画になったほうは、若者二人に妹と歌沢師匠の芝千代がからむ話である。
続報がないところを見ると、伊藤なる人が、戦後落ちぶれていたところへ新進作家が同名の小説を発表したのでカッとなったというところか。
なお昭和11年(1936)に小唄勝太郎の「浮名ざんげ」という流行歌も出ているらしい。
(小谷野敦)