「8月の果て」アマゾンレビュー

柳美里に何が起こったか
星5つ - 評価者: 小谷野敦、2021/04/19
この大作は「朝日新聞」に連載されたが、二年ほど続いて、柳は構想がふくらんだと言い、朝日は途中で連載を打ち切った。残りを『新潮』に載せて刊行されたが、当時は「中絶」のニュースばかりが前面に出ていた気がする。激しい熱量をもって書かれており、日本人が読んだらある不快感を感じるだろうが、それは当然あるべき不快感である。しかし本作は「評価されなかった」のみか、数年後に柳は、詳細は不明だが新潮社から半分追放され、執筆の場を『文藝』に移す。そして数年後、本作とは対照的な日本への愛(天皇への愛?)に満ち満ちた赤坂真理の『東京プリズン』がいくつかの賞をとり、本作の書評を書いた高橋源一郎にも賞賛された。そして柳は、全米図書賞という海外の賞によって評価されるのを待つしかなかった。要するにそういうことだ。