「クロムウェル」(ケン・ヒューズ)中央公論2016年1月

 大学で教えていたころ、世界史の勉強のため学生に映画を見せようとして
、西洋には日本のような、歴史上の人物を中心に描いた小説や映画が少ない
ことに気づいた。西洋の歴史小説というのは、『レ・ミゼラブル』や『風と
共に去りぬ』のように、歴史の中に架空の人物を主人公として動かすものが
主なのだ。シェイクスピアの史劇は王などが主人公だが、こういうものはな
ぜか小説では発達しなかった。これは、歴史は歴史としてドキュメンタリー
式に語るべきだという考え方から来ているようで、ジョージ・ワシントン
どが架空の台詞を口にしたりしてはいけないようだった。
 その後、日本の大河ドラマの影響で東アジアで歴史ドラマが作られるよう
になり、米国でも独立戦争を描いた「ジョン・アダムス」のような優れたド
ラマができた。
 その当時でも、アンジェイ・ワイダの「ダントン」などがあったが、「ク
ロムウェル」はちょっとした拾いものであった。クロムウェルをリチャード
・ハリス、チャールズ一世をアレック・ギネスが演じている。
 文化的にはイタリア、フランスなどに比べて後進国だったイングランド
、なにゆえヨーマンとかいった自営農民が議会に参加し、ついには議会軍と
王軍が戦って王を処刑するといったことになったのか、謎である。ピューリ
タンというのも今ひとつ分からない。
 クロムウェル時代は「共和制」と言われているが、後を継いだのが息子だ
ったから、今のシリアやコンゴ民主共和国北朝鮮のようなもので、実質は
クロムウェル朝だったのではないかと思うが、映画は革命成立後のことはあ
まり描かず、クロムウェルの遺体と、偉大な業績を讃えるナレーションで終
わる。映画としては大したものではないのだが、十七世紀英国については、
書籍も映画も手薄なので、ありがたい一本である。十六世紀英国については
、トマス・モアを描いた『わが命つきるとも』など割と映画は多い。
 フランス革命は私も好きだが、それにしては英国の革命については、妙に
知られていないのが謎である。