一九六〇年代前半、石坂洋次郎原作などの青春映画の中で、芦川いずみは
息を呑むほど美しかった。吉永小百合はまだ十代で、妹役などをやっていた
。吉永が成長すると、浜田光夫を相手役として石坂映画に出るようになるが
、これは芦川主演の、円地文子の原作に基づく、女の転落物語である。
あまり気づかれていないが円地文子は恐ろしい作家で、『朱を奪うもの』
三部作という私小説から、『私は燃えている』など、円地の実生活に照らす
とぞっとするようなものを書いている。中には通俗ものもあるが、それがま
た辛辣である。
女が二十五歳になれば売れ残りだった時代に、芦川は結婚を焦り、沢村貞
子が経営する小さな結婚相談所を訪れる。そこで男を紹介されるのだが、い
いかと思えば妻がいたり、果ては肉体関係をもってしまってから妻がいるこ
とが分かったりする。
芦川がしょんぼりして沢村のところを訪ねて、あたし、ばかでした、と言
うと、沢村の、それまで穏やかだった態度がごろりと変わって「そうですよ
、バカですよ」と言い始める。
沢村貞子は、この当時の映画にはやたらと脇役で出てくるが、この映画で
は、主役を食っている。結局この沢村貞子の結婚相談所なるものは、偽装さ
れた娼婦斡旋所で、客ともお互い了解ずみだったのである。
芦川いずみも、半ば無意識に、結婚できないヤケも手伝って、半娼婦みた
いになっていく。家は貧しく、母の浦辺粂子、妹の山本陽子、弟の中尾彬が
いて、芦川が事件に巻き込まれて入院しているところへ来て、山本陽子が憤
慨していると、沢村貞子の店が警察に摘発されたという新聞記事が出る。
芦川いずみは、メイクのせいかやや老けて見えるが、この山本陽子がまた
美しいから困ったものだ。今では、二十五歳の女が結婚相談所へ行くなんて
ことはまずないだろう。ましてや芦川いずみが、である。格差社会などとい
っていても、五十年で日本は豊かになったのだ、という意味でも面白い映画
である。