ドリヤス工場のおかしなマンガ

 今回で三回目になるのだが『文學界』の巻末にドリヤス工場という漫画家の四頁にわたる水木しげる風マンガによる「文豪春秋」というのが連載されている。文豪のエピソードの紹介なのだが、三回目が川端康成で「一途の踊子」と題されている。川端の若いころの伊藤初代失恋事件を扱っているのだがなんか変で、はじめのほうで、エランで貧血を起こして奥の室で寝ていたら初代の着替えを見てしまい、それはかつて伊豆で見た踊子を思わせたとあるが、ここはフィクションである。そして最後に、初代の思い出と伊豆の風景で「伊豆の踊子」を書いたとあるのだが、踊子は事実そのもので、このマンガ自体の中で矛盾している。
 あと初代が川端を振った「非常」の手紙について、寺の僧に犯されたとあるのだが、これは最近定説のように言う人がいるが、初代はそのあと川端に「あなたを恨みます」という不可解な手紙をよこしているのだから違う。なんかおかしなマンガであった。
小谷野敦