右翼爺さん

 渡部昇一の『腐敗の時代』(1979)を読んだら、徳富蘇峰のことが書いてあった。渡部が子供の頃、蘇峰の『日本国民読本』(1939)という「白い本」が家にあって、右翼爺さんだと思っていたという。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1919162
 これはおかしかった。渡部自身が、最後は右翼爺さんだと思われていたのだから。
 しかし蘇峰を読んでみるとその学力はすごかった。特に『近世日本国民史』がすごい。歴史学者はみな無視しているが、芳賀徹『大君の使節』だけは正直に利用したことを書いている、とあった。芳賀先生はもう蘇峰『国民史』のファンで、歴史学者はみなネタ本に使っているのに知らぬふりをしていると怒っていた。
 その『近世日本国民史』は講談社学術文庫に入っているのだが、ふと「豊臣時代史」を借りてみたら、なんか変である。『豊臣秀吉』の題で全四冊あるが、甲乙丙、の次が「庚」になっている。中身も、第三冊と第四冊の間が飛んでいる。つまりこの間の「丁戊己」の三冊は、朝鮮出兵を扱っており、蘇峰のことだからあんなことやこんなことを書いているので、いくら「歴史的資料」としても出せず、知らぬ顔で三冊飛ばして出してしまったということであろう。