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「『近世日本国民史』については、最近やっと杉原志啓が『蘇峰と近世日本国民史』(都市出版)で詳しい評価を書いた。ぼくはそのなかで初めて、大杉栄が獄中で『近世日本国民史』を読み耽っていたこと、正宗白鳥、菊地寛、久米正雄吉川英治が愛読書としていたこと、松本清張が蘇峰を評価していたこと、遠藤周作も蘇峰の歴史に感嘆していたことを知った。」
 芳賀徹先生は父が芳賀幸四郎なので、子供の頃「近世日本国民史」を枕がわりにしていた、と書いていたように記憶するが、愛読していた。ところでほかはともかく、久米正雄が愛読していたというのは気になる。久米は読書家ではなかったし、歴史好きでもなかったからである。そこで杉原志啓『
蘇峰と『近世日本国民史』 大記者の「修史事業」』を見ると、久米が愛読したという記述に注がついていて、『三代言論人集成』第六巻の阿部賢一徳富蘇峰」(時事通信社、1963)があがっていた。阿部(1890-1983)は新聞記者で、久米とも親しかった。で、それを見てみると、『近世日本国民史』を「一般読者からは面白く読んだ、という話もずいぶん聞いている。話はちょっと外れるが、かつて久米正雄が筆者に語ったことがある。「蘇峰の歴史を一揃いもっていると、時代物作者は一生食いはぐれないよ」と」。
 つまり久米は歴史作家を皮肉って、蘇峰をネタ本にしていると言っただけで、自分が愛読したとは書かれていないのである。それを杉原が、まあさして他意はなかったのだろうが誤読し、松岡が孫引きしたというわけだろう。