「昔は良かった」と「日本はダメ」

 大塚ひかりさんの『本当はひどかった昔の日本』が話題になっているようで喜ばしいことである。新潮社のPR誌『波』に稲泉連が書評を書いているのだが、中に、「今の時代がいい、と大塚さんが言いたがっているわけではない」(大意)とあった。いや、言っているのだよ。私は稲泉の本を読んだことはないが、現代を扱うノンフィクション作家が、こういうミスリーディングにおちいるのは、よく分かる。
 「昔は良かった」という議論はたいへん流行している。と同時に、「日本はなぜダメか」とかいった議論も流行している。これはどちらも同じことで、共通しているのは、思考停止している点である。昔がそんなに良かったかどうか、普通の歴史の教養があれば、そんなはずはないことが分かる。まあ中には本当に教養がない人もいるが、あっても、思考停止してしまう。「日本はダメだ」もそうで、安原顕など、日本は五流国家だなどと書いていたが、じゃあ一流はどこで二流はどこで三流はどこで四流はどこなのか、生きていたら問い詰めたいところだ。北朝鮮とかシリアなんてのは三十七流くらいになるのか。
 保守派の人は、英国あたりがいい国だと思うのだろう。なんリベの人は、昔はソ連中共だったが今なら北欧あたりか。しかし人口密度がまるで違うので、東京都より人口の少ないスウェーデンと同じことをやれと言ってもそりゃ無理だわな。 
 要するに近視眼的なので、今ここから遠くへ行くとよい世界があると夢想して、深く考えないのである。