話題の書であるらしい鈴木健なめらかな社会とその敵』が、半年くらい待って図書館から回ってきた。最近の癖で最初のページからまじめに読み始めて、そこでつまづいてしまった。「はじめに」であるが、

 西ドイツのデュッセルドルフ日本人学校に通っていた14歳の私は、1989年5月に修学旅行として民族分断の象徴たるベルリンの壁を越えて東ドイツに入国した。貸切バスが国境検問所のチェックポイント・チャーリーに着くと、若い東ドイツ兵が乗り込んできて、前の席からパスポートの確認をはじめた。中学3年の少女は成長真っ只中で、パスポートの顔写真と一致するはずもない。東ドイツ兵の視線はパスポートと本人の顔の間を何度もいったりきたりして、そのたびにバスの中はクスクスと笑い声で満ちた。…

 「少女」とあるのが眼に止まり、えっ、鈴木健って女だったのかと驚いた。だが写真を見ると男のようだし、髭の生えた写真すらある。文章をよく見ると必ずしも鈴木自身のことではないようにも思える。
 それに、デュッセルドルフから東ドイツに行くのに、なんで西ベルリンを経由しなければならんのか。西ドイツから東ドイツへ行くには、いったん西ベルリンまで飛行機で飛ぶのだろうか。この文章は、その五ヶ月後にベルリンの壁が崩壊した、と続くのだが、もしや作り話?