ミャンマーについて

 新潮社気付けで角岡伸彦氏から手紙が来て、『世界史入門』を読んだが、ミャンマービルマとする点について違う意見もあるとだけあり、著作のコピーが二枚分入っていた。山口洋一と寺井融の『アウン・サン・スー・チーミャンマーを救えるか?』という本の、寺井執筆の箇所である。
 しかしあまり筋のいい本ではないようで、寺井は、日本のマスメディアが偏向していると言い、「ある人気テレビキャスターのK氏」が、ミャンマーは軍事政権が要請する呼称だから私はビルマと言い続けると言ったとか、『ニューズウィーク』は「ビルマミャンマー)」と記していると言って、ビルマは一部族の名だからミャンマーとは無関係だとし、セイロンがスリランカになり、カルカッタコルカタになったように、ミャンマーでいいではないかと言っているのだ。
 だが、日本のマスコミは私が見ているとみなミャンマーなので、いったい寺井は何をもって「日本のマスメディアの偏向」としているのか分からないし、「ニュースキャスターのK氏」などと言っても分からないから、実名を出すべきであろう。それに、寺井の主張から言えば、ミャンマーが多数派である日本のマスメディアは、西欧のマスコミより良質だということになるではないか。そのあとで、「朝日新聞」への、よく分からない批判がある。
 共著者の山口という人は、軍事政権寄りの人として知られており、寺井は元西村眞悟の秘書である。うさんくさいといえばうさんくさいのだが、意見は意見でいいから、もう少し筋の通った議論をしてほしい。
 それに私が知る限りでは、日本のマスコミはミャンマー多数派なのだから、「わが社ではかくかくの考えによってミャンマーを用いる」と表明すべきであろう。私が批判しているのは、そういう態度表明も議論もせず、一斉に言葉を換えればいいというマスコミの姿勢なのである。
小谷野敦