金田一春彦著作集 別巻』に載っている金田一自筆年譜が実に面白い。春彦の母はわがままであまりいい人ではなく、春彦は嫌っていたらしい。それで二十歳ころ、三上久子という未亡人宅に下宿して、久子を母がわりにしていたらしく、のちに12歳年下の久子の娘が17歳の時に結婚している。
 45歳のころ、三学年下の松村明が、時枝誠記の下で東大助教授になったことで、自分が東大教授になれないと知り落胆している。もっともその前にテレビ番組などに出ていたから、東大では一般的にテレビに出るような人は採用しない。尾上圭介は出ていたが。
 だが考えてみると、私は自分より下の、東大比較文学出身者が東大助教授とかになってがっかりしたということがない。なぜなら私より下の比較の出身者が東大教員になること自体、この十数年、ないからである。唯一、小林宜子さんがいるが、あれは比較枠ではなくて米国で博士号をとった英文学者枠である。

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私が若いころ「朝日新聞」の投書欄に若い女の投書があり、彼女が電車内でたまたま漫画を読んでいたら、おじさんが「本当に(若い人は)漫画しか読まないんだねー」と言ったので軽く口論になって、彼女が最先端の純文学作家の名前を言うとおじさんは知らず、「知ったかぶりをするな!」と怒ったという。結びは、漫画を読んでいるからってすぐに一般化しないでほしいということなのだが、この話を思い出すたびに何か後味の悪さを感じる。しかし今ならないことだね。