昨日ヤフオクに出ていた川端康成の、養女・政子宛の葉書だが、落札されたのか。
 これは偽物である。かなり巧妙ではあるが。
 全集に、これとほぼ同一の文面が載っているが、どういうわけか、最後に「かのさんと二人で寂しいでしょうが」のあと「面倒をかけないように」が抜けている。
 三枚続きの葉書なので、なぜ流出したのか、も不明だが、決定的なのは消印で、これは昭和18年4月21日の葉書なのに、「11、2.6」となっており、浜松から出した葉書なのに「荏原」の消印がある。ずいぶん手間をかけたものだが、気の毒に落札した人はいたのだろうか。

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 東大美学科の安西信一さんが『ももクロの美学』を広済堂新書で出すというので話題になっている。安西さんはシェイクスピア学者で上智大教授だった安西徹雄の息子で、私は徹雄さんの在世当時、とつぜん、変なおじさんから電話を受けて、あなたの著作を電子化したいと言われた。まあ今なら電子書籍だが、当時はまだ一般的ではなく、それに相手の正体もよく分からなかった。そのおじさんは、安西氏が上演台本として翻訳したシェイクスピアも出す、と言っていた。
 どうにも困った私は、安西氏に電話をかけて問い合わせた。面識はなかったのだが、「相手にしないほうがいい」と言われ、その後葉書もいただいた。
 さて、美学科といえば、私の学生時代は、ヘーゲルとかカントとかの訓詁注釈をするところで、前にも書いたが、私と文三で同じクラスだった映画好きの男が美学科へ進んでえらい不満で、今道友信の影響が残っているとか言って大ゲンカして、大学院へ行くつもりもあったのに、そのまま卒業してしまった。そこからすると、隔世の感がある。