こないだ新聞の私小説に関する記事で伊藤氏貴がコメントしていて、昔のように作家の動静が広く知られている時代ではないので私小説が昔のように盛んになることはないだろう、と言っていたが、それはちょっと違う。
確かに戦前は、読売新聞の「よみうり抄」などで、文学者や文化人が何をしているか細々と報じられたりしていたが、そもそも大正から昭和にかけての純文学の単行本部数は、五百から千、大家でようやく二千といったところだ。今だって、西村賢太レベルの作家のことは、その程度の人数は知っているわけで、もともと純文学というのはそのくらいの人数の社会で云々されていただけなのである。
恐らくこれから一年くらいは、新人賞の応募作に私小説が増えるということはあるだろうが、隆盛ということはないだろう。隆盛ということがあるとすれば、既成作家の方々が私小説に挑戦するかどうか、ということの方にかかっていると思う。