こけら落し!

 昔、柳生博が司会をする『ハンターチャンス』とかいうクイズ番組があった。クイズ番組にもいろいろあって、『カルトQ』のようにとんでもない細かい知識が必要なものもあれば、『ヒントでピント』のように、藝能人出演ながらそうとう頭がよくて知識がないと答えられないものもあったが、『ハンターチャンス』は凡庸なおばさん向けの、低レベル番組で、割と東大あたりの学生など、出演者をバカにしながら観ていたように思う。
 その番組で、「秋は日が早く暮れることを、秋の日は、何というでしょう」という問題に、バコン、とボタンを押して、「こけら落し!」と叫んだおばちゃんがいたのを今でも覚えている。
 因みに「柿落し」の「柿」の字は果物の柿とは微妙に違って、上のチョンと下の棒とがつながっているのだが、見た目は同じなのでみな代用している。
 そういえば『アメリカ横断ウルトラクイズ』で、「一人で語るのはモノローグ、二人で語るのは」という問いに、「ジローグ!」と答えた青年がいたなあ。うんうん、気持ちは分かるよでもダイアローグくらい知っていようね、という感じだった。なお二つの要因の板挟みになるのはディレンマ、三つだとトリレンマである。四つだと四面楚歌である(嘘)。

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十川信介先生の『近代日本文学案内』(岩波文庫別冊)の287ページに「鉄道病
」のことが書いてあって「(現代ではまったく聞かなくなったが)」とあるが、これは大きな間違いで、長時間ノンストップの特急列車に乗れないとか、時には各駅停車でも乗れないとかいうのは、不安神経症の典型的な症状である。これは閉所恐怖がある方向へ発展したものだ。十川先生からこの本を戴いてまだ読まずにいたうちにお葉書が来て「君が鉄道病なのを忘れていました」とあり、確認したらそんなことがあった。もっとも「パニック障害」の一症状として広く知られているのだから、校閲の人にチェックしてほしかったですね。
 (小谷野敦