消費税に関する嘘の説明をやめよ

 私が、初めて確定申告をしたのは、一九九九年に大阪大学を辞めて、たまたまその年に本が売れて多量の文筆収入があったので、その翌年のことである。私は元来、経済というのが苦手で、今でも、経済学というのが役に立つのかどうか疑問に思っている。経済学者のかくかくの説がかくかくの効用を示したというような話を、聞いたことがないのである。資産もないサラリーマンの家に育ったから、まったく気にせずに生きて来たのである。ただし、カナダ留学中は、奨学金に課税されたので、この時は申告している。しかし間違いだらけだったようで、あちらで徹底的に直された。
 その頃は三鷹に住んでいたから、三年間は武蔵野税務署で、最初の二年は持参して、これでいいのか税務署員に確かめてもらって出した。ところが最初の年は、必要経費を引くということを知らなかったため、収入に丸ごと課税されて、大変な思いをして、翌年からは領収書を取っておいて必要経費を引くようにしたが、すると返ってきたのは良かったが、その後で都民税と市民税がかなり掛かってきた。
 最初の年は、税区分が分からなかったので、「文筆」とはしなかったように思うが、確か次の年からは文筆業として申告していた。阪大時代は共済組合の保険だったから、日本文藝家協会に入って、文藝美術国民健康保険というのに加入した。同じころ、日本ペンクラブにも入っていたのだが、この団体は単なる親睦か、ないしは政治的団体だと感じたからほどなく退会した。そのうち、文筆業は、「変動所得」での申告という、三年間の所得を使った不思議な計算で申告できることが分かったが、この「変動所得」に関する説明書を見ると、「事業所得や雑所得のうち、漁獲やのりの採取による所得、はまちやまだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠、真珠貝の養殖による所得、印税や原稿料、作曲料などによる所得をいいます」とあり、何ともおかしかった。しかし藝能人なども、仕事が来るのを待つ俳優などというのがいるけれど、変動所得にならないのだろうか。
 それから二年ほどして、二〇〇三年度から消費税法が変わり、消費税が課される年収が三千万円から一千万円に下がり、私にも消費税納入の可能性が生じるようになった。私の年収は一千万を超えたり超えなかったりだったが、その当時は、いずれまた大学教員になるつもりでいたし、さほど気にもせずに、規定通り、超えたら申告していたが、どういうわけか、超えた年の二年後に払うというので、なぜそんなにずらすのかなあと思った。
 さて、二〇〇八年の収入は一千万を超えた。だが二〇〇九年はがくんと減って七百万円台だったが、前者は小説の映画化権料が多かったのだろう。だから私は二〇一〇年には、前年の収入が一千万を割っているにもかかわらず、消費税を払わなければならなかったのだが、前年の収入によって消費税支払者でなくなった申告書を見ていたら「一年ないし二年」とあったので、おや一年後になったのかなと思い、そう記入した。
 先ごろ、やはり文筆家の岸本葉子さんが、税理士を頼んでいると彼女のブログで知って、意外に思ったものだ。人気評論家の茂木健一郎が、納税を怠ったというニュースが流れた際、三億とかの収入があるのだから税理士を頼めばいいのに、という声が多かったが、私程度の収入では税理士を頼むほどのこともないし、岸本さんも、私よりは講演などがあるから多そうだが、まさか一億ということはないだろうから、意外だったのである。
 三年目くらいからは、税務署へ行かずに郵送するようにしていて、二〇〇三年からは転居したので杉並税務署になったが、これも郵送していた。三年前に結婚して区内で転居した際、納税証明書が要るというので行ったが、これは妙に交通の便の悪いところにあった。もっとも、井の頭線沿線に住んでいると、区役所なども便は悪いのだが、「すぎ丸」という、中央線と井の頭線を結ぶ小型のバスが走っているので、それに乗ればいいのだった。
 私は当初、支払調書も領収書も全部郵送したから、まるで軍隊の慰問袋みたいなものになっていたのだが、そのうち税務署から、支払調書はこちらへ来ている、というので領収書だけ送っていたら、要らないといって返送してくるようになったので、そのうち贈らなくなった。税務署は、私程度の収入の者のことなど、どうでもいいのである。
 確定申告は、嫌なものである。いちばん嫌なのが、源泉徴収票を遅れて送ってくる出版社があることで、たいてい一社くらいは、提出した後で送ってくる。私は、面倒なことは早くすませる人間なので、いつも二月中には郵送している。さて今年は、出したあと、二月中だったが、税務署から女の声で電話が掛かり、「消費税納入者でなくなった申告書」の年の記載が違っていると言い、訂正してもいいかと言うから、いいと言った。この時、もしかして二年前の消費税のことを言われるかな、と思ったら言わなかったので、いいのか、と思った。
 税金は三月中には返ってきて、都民税と区民税も、今年は安く済んだ。しかし五月になって、消費税の申告がなされていないという通知が来た。それで電話をしたら、担当の若い男のような声だったが、私は、例の「訂正」の時に言ってくれれば、と文句を言った。あわせて私は、かねて疑問だった、なぜ二年後なのかということを訊いたのである。この時の問答は、まったく録音しておけば良かったと思う。そもそも、二年後などということになっているから、もしかしたら収入が激減した翌年に支払うことになったりするので、不快なのである。とにかくこの税務署員は、一言で言うと、答えられなかったのである。
 「えー、たとえばこの場合ですと、平成十九年一月イッピから十二月三十一日までの収入が一千万円を超えた時……」
 どうして大人はこの「イッピ」という表現を使うのだろう。
 「一月イッピには、まだ自分が消費税納入義務があるかどうか、分からないわけですよね」
 「だって確定申告は三月なんだから、それまでには分かるじゃないですか」
 「……え、法令によりますと……」
 「いや、法令は分かったから、なんで二年後なのか」
 「ですから、一月イッピにはまだ…‥」
 この繰り返しである。私は遂に苛立って相手を罵り、電話を切って、「消費税」「二年後」でインターネット検索をしたら、税理士のサイトが出てきた。説明はあるのだが、何を言っているのか分からない。これはまことに面白い現象で、税理士は、だいたい小売業者を対象として説明しているから、ちっとも分からないのである。そこで、国税庁の質問掛へ電話をした。すると、消費税納入義務があると分かったら、売る商品に消費税を掛けることになるので、それはすぐにはできない、だから二年後なのだ、と言われて、ようやく分かった。
 税務署の職員が説明できなかったのは、私が文筆業だと知っていたからなのである。それだと、消費税納入義務があると分かって、原稿料に消費税を掛けるなどということがあるわけがないので、説明できなかったのだ。そして私は今度は、日本文藝家協会に電話を掛けて、税務担当の人に、文筆家の場合はどうなっているのかを訊いた。すると、実際には何も変わらないのだが、建前上、支払われた原稿料に消費税が含まれていることになっているのだ、というのであった。
 その時、初めて私は、文筆家が消費税を課せられるというのはかなり理不尽なことだ、と気づいたのである。
 それで、改めて文藝家協会に、どういう対応をしたのか問い合わせると、議題になり、抗議すべきだという意見もあったが、多くは見送りの意見だったという。文藝家協会会員の平均年収は五百万だというから、多くの会員にとっては無関係で、ごく少数の売れっ子作家などは、三千万以上の収入があり、もともと納入していたということになる。それが一千万まで下がると、私のように、一千万円前後を行ったり来たりする文筆家がいちばん被害をこうむるということになるわけだ。
 そして私は、異議申し立て書を提出し、八月はじめの、百何十年ぶりという猛暑の最中に、訂正個所があるという電話があったので、すぎ丸に乗って税務署まで行き、訂正の手続きをしてきた。だが、八月末に届いた決定書は、一つ、嘘をついていた。それは三月に訂正の電話があった時に、二年前の消費税は申告義務があると言った、というところである。しかし、こればかりは録音しておいたわけではないから、反証は提出できない。あと、文筆家が消費税を払うのを、憲法違反だとした点(職業選択の自由の侵害)について、税務署では憲法判断はできない、とあった。
 そこでいったんは、さらなる異議申し立てをしようとしたが、前者についてはもうよい、文筆家の消費税支払いについてのみにしたい。となると切り離す必要があるから、改めて裁判所の判断に持ち込むことにした。
 知人の弁護士に相談すると、消費者から消費税を預かって税務署に渡すという、税務署そのものも言い、また多くの税理士がおこなっている説明は、消費税法からいえばごまかしに近く、そのような事実はないとのことであった。
 そうなると、私はむしろ、そういうごまかしの説明を許すことができない、と思った。そこで、弁護士に頼んで国を提訴することとし、このたび訴状を東京地裁に提出した。私は、「消費税」と呼ばれているものを文筆家に課すこと自体がおかしいとは言っていない。単に、「お客さまから預かったものを税務署に支払う」といったウソの説明をするのはやめてほしいだけである。
 訴状本体は以下の通り。

第2 請求の原因1
 1(1)原告は、2010年5月に、消費税の申告を求める連絡を、杉並税務署の担当者から受けた。(ちなみに、原告の売上は、2008年に1000万円を超え、後述のとおり、2010年の売上について、消費税の納税義務が生じたものである。)
(2)原告は、商取引を行う一般の商工業者のみならず文筆業者にも消費税納税義務が生じうるという点がにわかには理解できなかった。
このため、原告は、なぜ文筆業者にも消費税の納税義務が発生するのか、具体的な説明を担当者に求めたところ、これに対して担当者は口頭で一応の説明をするとともに(但しこの説明は要領を得ず、原告はよく理解できなかった)、作成者国税庁名義のパンフレット『暮らしの税情報』(以下「本件パンフ」(甲1))を原告に交付した。
この本件パンフ3頁『消費税のしくみ』によれば、消費税については「消費者が負担し事業者が納付します。」「商品などの価格に上乗せされた消費税と地方消費税分は最終的に消費者が負担し、納税義務者である事業者が納めます。」などと記載されていた。
(3)原告は上記のとおり文筆業者であり、自ら意識して消費税を原稿料等の価格に「上乗せ」などする行為をした覚えはなく、また消費者の負担した消費税を自分が事後的に、直接間接に受領してから納付する立場でもないので、上記の記載では自分が消費税納税義務を課される根拠についての説明がなされているとは到底考えることができず、さらに国税庁にも問い合わせをしたところ、やはり同様に「消費税を商品などの価格に上乗せし、それを消費者が負担して、事業者が納める」などという類似の趣旨の説明がなされた。
2(1)以上の経緯から、原告は、自分のような文筆業者が消費税を納税しなければならない根拠や仕組みについて、適切な説明がなされていないと考え、代理人弁護士を通じて、国税庁長官に対して質問を提出し、文書による回答を求めた(甲2)。
(2)原告が代理人を通じて国税庁長官に対して提出した質問の要旨は、次のとおりである。(これらの質問は、主として、文筆業者たる原告が消費税を課されて納付することを念頭に置いた場合に、本件パンフの記載では適切な説明になっていないという疑問、問題意識に基づいている。)

 ①「価格に消費税が上乗せされ、それを消費者が負担したこと」が、課税それ自体の要件(根拠)であるかのように誤解されるおそれがあるのではないか
 ②「消費者の負担」が常に起こるとは限らないにもかかわらず、それを一般化している点で不適切なのではないか
③「消費者が負担し事業者が納付する」という表現も、時間的に消費者の
負担が先立つとは限らないことから、不適切なのではないか
④「商品などの価格に上乗せされた消費税」という表現も、実際の事業者
は、あらかじめ決まった本体価格の上に意識的に税を「上乗せ」して税込み価格を決めているとは限らないことから、実態に必ずしも合致せず、やはり不適切なのではないか

 上記の質問を記載した書面を当初内容証明郵便にて送付したが(甲2)、回答が無かったので、普通郵便で再度回答を要請したところ、国税庁の担当者(消費税室の消費税第一係長とのことであった)から代理人に対し電話で口頭の説明はなされた。その概要としては、「本件パンフは国民一般にわかりやすく消費税の仕組みを理解してもらうために作成したもの。」等というものであった。
 代理人は、口頭のやりとりだけでは内容の確認が困難なので、同趣旨を文書でも送付してくれるように要請したが、それは断られた。
3 問題の所在
 (1)まず、一般論として、憲法の定める原則たる租税法律主義(憲法84条)は、単に形式的に法律に基づいた課税がなされるべきということにとどまらず、その法律について立法府が適切に判断して立法・改廃できるために、いわば租税民主主義の観点から、課税の根拠について、主権者たる国民に対して国が正確な説明を行うことをも要請するものである。
 それにより、国民は自己のいかなる行為が課税の対象になるか知りうるだけでなく、租税制度の長所短所、性質、あるべき姿等についての見解を持ち、立法に反映させることも可能となるからである。
(2)消費税の例でいえば、特に消費税納税義務者の場合、「自分が消費税を納税しなければならないとすれば、その根拠はどのようなものなのか」「自分の場合、どのような過程で課税がなされるのか」について、適切な説明が求められる。
 上記の視点からいえば、原告に対して国税関係者からなされた口頭での説明や、本件パンフでの記載は、一定の類型の商工業者の取引については適切な説明であるかも知れないが、文筆業者たる原告に対する説明としては、甚だ不適切なものである。上記3(2)で述べた点に即していえば、問題は次のとおりである。
①まず、「価格に消費税が上乗せされ、それを消費者が負担したこと」が、課税自体の要件(根拠)であるかのように誤解されるおそれがあるのではないかという点。
原告のような文筆業者の場合、「消費者」に相当する者がいるとすれば、その著作を購入する「読者」がまず想定できるところであるが、たとえば原稿料の場合、読者がその著作を購入するよりも前の段階で、出版業者から原告に支払われる。そこで既に消費税が問題となるのであって、「消費者の負担」は問題とならない。
②次に、「消費者の負担」が常に起こるとは限らないにもかかわらず、それを一般化している点で不適切なのではないかという点。上記①とも関連するが、原告が著作の原稿を出版業者に提出し、原稿料を受領したとしても、実際にそれが書籍として出版され、読者(消費者)に購入されるとは限らない。つまり、「消費者の負担」と、原告の消費税納税とは、当然に連動する関係にはないはずなのである。
③また、「消費者が負担し事業者が納付する」という表現が、時間的に消費者の負担が先立つとは限らないことから、不適切なのではないかという点。これも上記①②と関連するが、原告の場合、原稿料を受領するのは、読者(消費者)が書籍を購入するよりもはるかに前の時点であり、「読者(消費者)が負担し著者(事業者)が納付する」という関係は成り立たない。
④さらに、「商品などの価格に上乗せされた消費税」という表現が、実際の事業者は、あらかじめ決まった本体価格の上に意識的に税を「上乗せ」して税込み価格を決めているとは限らないことから、実態に必ずしも合致せず、やはり不適切なのではないかという点。これは、内税方式を考えれば、容易に理解されよう。
 総じていえば、以上は、消費者と直接に売買を行う小売業者については一応あてはまるものの、文筆業者たる原告に対する説明としては甚だ不適切である。原告の疑問に対して、本件パンフを交付するというのは、不適切ということになる。
(3)以上より、国は、一定の類型の商工業者の取引のみを念頭に置いたような説明のみが記載された本件パンフを文筆業者たる原告に交付し、同様の口頭での説明をするのみで、原告の立場にふさわしい消費税の説明をせず、国民に対する課税の仕組みの説明義務を怠り、課税の仕組みについて適切な説明を受けることについての原告の正当な法的利益を侵害した。
 これによって原告の受けた精神的苦痛は5万円を下らない。
第3 請求の原因2
 1 周知のとおり、消費税法9条1項の定めによれば、いわゆる小規模事業者に係る納税義務の免除の定めとして、
「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。」
とされている。
 すなわち、ある暦年(上記の「基準期間」である。仮に西暦表記で200X年とする。)に売上1000万円に満たなかった個人事業者は、その翌年(200X+1年)及び翌々年(上記の「課税期間」である。ここでは200X+2年)については、納税義務が免除される。
 ところが、逆にいえば、200X年に売上1000万円をいったん超えると、仮に200X+1年及び200X+2年の売上が乏しくなり1000万円を大きく下回ったとしても、課税期間たる200X+2年については、消費税を納付する義務を負うことになってしまうのである。
 2 このように、消費税は、売上の多寡と実際の課税(納税義務)の有無とがいったん切り離されうる点に特色があり、この点において、所得税などとは甚だしく異なった性質を有している。
 このような消費税の性質は、年によって売上の増減の変動が激しい零細規模の個人事業者については、生活を脅かす恐れすらある。
 一般に、零細規模の個人事業者は、自らの売上によって生計を維持するしかないのであるが、ある年に売上1000万円を超過した場合、その2年後の売上が激減してはるかに1000万円を下回っていたとしても、その激減した売上の中から消費税を納付しなければならないのである。
 この点、鳥取地方裁判所は、平成12年5月16日判決(平成11年行(ウ)第2号)において、
 「消費税法2条1項14号において課税期間に係る基準期間を課税期間である事業年度の前々事業年度(引用者注、これは納税義務者が法人の場合である。個人事業者の場合は「前々年」)と定めたのは、消費税が転嫁を予定している税であることに鑑み、当該課税期間の当初から事業者が当該課税期間における納税義務の免除の有無について確定的な判断をもって取引することが可能となるように、当該課税期間の当初の時点において確実に課税売上高を把握できる前々事業年度を当該課税期間に係る基準期間と定めたものと解され」る、
   と述べている。(下線は引用者による)
 この解釈は、事業者が、消費税を取引先に対して転嫁することができ、実質的に自己の売上を維持できるということを前提とするものである。そうだとすれば、自らの負担した消費税を事実上転嫁するのが困難である小規模の個人事業者にとっては、そもそも、この前提が欠けているといわねばならない。
 4(1)このような点で、消費税法(具体的には、基準期間を前々年とさだめた同法第2条14号及びこれを前提とした第9条1項)は、消費税の取引先に対する転嫁が困難な小規模個人事業者について、少なくとも「売上が1000万円を上回った年についてではなく、その2年後に、課税1000万円を下回ったとしても課税される」という点において、以下に述べるとおり、憲法14条1項の平等原則に反するものである。
(2)まず、消費税を取引先(買い手)に対して転嫁可能な立場にある事業者は、仮に課税期間の売上が落ち込むことがあるとしても、消費税はそれとは別に、既に触れたとおり買い手に対してそのまま上乗せして転嫁できるから、消費税を課されることそれ自体による不利益は存在しない。(上記の鳥取地裁の裁判例は、まさにこの状態を想定している。)
 これに対して、消費税を取引先に対して転嫁することが困難な個人事業者は、仮に課税期間の売上が落ち込んでいれば、そのままもともと小さい売上から(いわば身を削って)さらに消費税を支払うことになる。
 上記のとおり、個人事業者は、売上の中から、事業に必要な経費を支出するとともに、所得税を納税し、さらに自己の生活費を確保しなければならない。このように考えるならば、少なくとも売上が1000万円を下回った場合にまで、消費税を転嫁することが困難な個人事業者に対して納税義務を課するのは、転嫁が容易な事業者に比べて、事業遂行や生活のうえで、甚だしい不利益を与えることになる。
 (3)このように、消費税法第2条14号及びこれを前提とした第9条1項は、消費税の転嫁が容易な事業者と、転嫁が困難な個人事業者との間において、著しい有利不利の差をもたらすものであって、法の下の平等に反し、憲法14条1項に違反するのである。
 5 消費税の転嫁が困難な個人事業者たる原告は、2009年の売上は、756万円、2010年の売上は901万円にとどまったにもかかわらず、2008年の売上が1000万円を超えていたため、上記の経緯により課税義務者とされて、2010年分の売上について、消費税納税義務を負うに至った。
これは上記のとおり違憲の法律の適用により、権利または法的に保護されるべき利益を侵害されたものであり、その精神的損害は5万円を下らない。
第4 結論
よって、本訴状のとおり合計10万円の精神的損害について、損害賠償を請求するものである。

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 『久米正雄伝』で、成瀬正一が成瀬正勝と違うことを説明しておいたが、つまらないことなので削ろうかと思ったものの残しておいた。そうしたら、やっぱり混同している例を見つけた。稲垣眞美『旧制一高の文学』(国書刊行会、2006)の68ページに「犬山城主の裔であった成瀬正一」とあった。犬山城主の裔は正勝のほうである。