本にも書いたことがあるのだが、民事訴訟と刑事訴訟はまったく異なるものだ。民事訴訟は、起こす気になれば、誰でも、誰に対しても起こすことができる。検察がとりあげなければ裁判にならない刑事事件とは違う。「告訴」といえば刑事事件のことで、民事であれば「提訴」が一般的である。
栗原さんの本にも取り上げられている(まだ発売されていないようだが)、山口玲子がNHKを訴えて最高裁まで行って敗訴した著作権侵害事件があるが、その山口が敗訴の後で書いた『NHK犯歴簿』に、「著作権侵害はレイプと同じで親告罪だ」と書いてあるのを見て、私はたまげた。民事と刑事の区別がついていないのだ。民事訴訟に親告罪も何もあるものか。13年間も裁判をやっていて、なぜこの程度の認識なのか、理解に苦しむ。弁護士の中村稔はちゃんと教えなかったのだろうか。
山口は、いい仕事をたくさんしてきた。だが、それも裁判で中断している。優れたノンフィクション作家が、こんな裁判で時日とエネルギーをムダにしたのが、残念である。
(付記)著作権侵害が親告罪だというのは、海賊版とか、まるごと使ったとかいう場合の話である。このような「盗作」「似ている」事件の場合には、とうてい当てはまらない。山口のようなケースで、警察へ届け出たって、取り上げられるはずはない。強姦が親告罪だというのは、強姦されれば警察へ届けるし警察も調べるが、被害者の同意がなければ書類送検しないという意味で、山口のケースとはまるで違う。
もっとも名誉毀損や公然侮辱罪の場合、どうも警察によって対応が違うらしく、瀬々さんが行くと取り上げたが、私が行っても取り上げないのはなんぞや。
それから、国会図書館であまり知られていない作家の作品をコピーしようとしてできないのもそうだが、著作権保護のために著作者が損をするケースもある。たとえば木原敏江先生は、自分のマンガがアマチュア団体によって無断で劇化・上演されることに怒っていたが、木原先生のような人気マンガ家ならそれも当然、しかし、たとえば無名の作家の小説や戯曲やマンガが、「誰それ原作」と銘打って無断で上演されたら、作家はそれで少しでも売れてくれると思って喜ぶ、ということもあり、仮にその劇団が作家の連絡先が分からないとかで、上演をとりやめたら悲しいだろう(もちろん知らないでいるわけだが)。