門田隆将の裁判

 ノンフィクション作家の門田隆将(1958− )が2010年に上梓した『風にそよぐ墓標 父と息子の日航機墜落事故』(集英社)は、六家族を取材して描かれたものだが、そのうち第三章で扱われた池田知加恵(1932?− )から、著作権侵害で民事提訴され、東京地裁は書籍の廃棄、著作権侵害の損害賠償、慰謝料の支払いなどを命じた。門田は控訴した。
 池田知加恵は、日航機墜落事故で死んだ池田隆美の妻で、陸軍中将・池田純久(1894−1968)の一人娘である。http://kotobank.jp/word/%E6%B1%A0%E7%94%B0%E7%B4%94%E4%B9%85
隆美は小倉の生まれで旧姓・久保。ともに慶大に学び、隆美が婿入りする形で結婚、隆美は東レに勤務しており、大阪の茨木に住み、息子の典正は読売テレビ勤務で当時25歳。1985年8月、隆美は東京本社へ日帰り出張し、帰路、日航機に乗った。
 知加恵は、87年に自費出版で『なにか云って : 8・12日航機墜落事故 26家族の記録』を刊行し、そのうち自身の事故当時の日記を再録して、96年に『雪解けの尾根 : 日航機事故から11年』(ほおずき書籍)を上梓している。門田は「父と息子」という趣旨から、50歳近くなった息子の典正に取材し、知加恵にも取材し、著書の提供を受けた。
http://www.kadotaryusho.com/blog/cat6/
 門田の著書は、隆美が「婿入り」したことは不幸だったのではないかというニュアンスで書かれており、これが知加恵には心外だったのだろうということが容易に推察できる。ほかにも、息子から家にいるように言われた知加恵が、自分でバスに乗って東京まで出てきたことが、いくらか勝手な行動というニュアンスで書かれてもいる。そこで抗議し、著作権侵害という手で報復に出たと言える。池田側弁護士筆頭は梓沢和幸であり、柳美里裁判の原告側弁護士であり、いわば「作家キラー」である。
 判決文は以下にある。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130408114346.pdf
 原告は25か所について著作権侵害などを申し立てたが、裁判所は、うち15点および、2点については前後に分離して片方につき、原告の著作に創作性があると認めたから、25件中16件である。
 栗原裕一郎『盗作の文学史』でいえば、山崎豊子立松和平の例に類似している。ただし、これらが、事実に基づいた小説であるのに対し、門田のものはノンフィクションである。
 ところで池田の手記に、「飛行機にはもう乗らない」というのがあった。あんな事故があっても、飛行機に乗る人が減った、などということはない。不思議なことだ。