ていみこさん?

 朝日新聞をとっていた時、いろいろなだしものへの招待券が抽選で当たる用紙をくれていた。私はいつも歌舞伎座の切符に申し込んでいたのだが、二人分とるのに、二枚の往復はがきに相手方の名を書いて出すので、ある時、二枚とも自分の住所を書いて、相手方の名を、小谷野なんとかにすればいいのに、谷崎伝に没頭していたため、「古川丁未子」と書いて出したことがある。程なく当たって私の分だけ戻ってきたのだが、一枚しかないのでおかしいな、と思っていると、歌舞伎座から電話があって、一枚戻ってきています、という。私は古川丁未子と書いたことをすっかり忘れていて、向こうが「古川さんとなっていますが、住所はそちらですね」と言うのに、古川って何だろうとまったく思いつかず、「古川、誰ですか」と尋ねると、読めようはずがない。てい、みこさん…でしょうか?、などと言う。それでも私は気づかない。というか、古川丁未子と書いたことなどまるっきり頭にないのだ。ええ? どういう字ですか、と訊いて、字が分かって、あっ、それはうちのです、と答えたのだが、まあ向こうも変に思っただろう。